村上裕希さん
妻・真弓さん

移住年:2016年
職業:地域おこし協力隊

人と人との暖かい繋がりが、
この島の魅力だと思うんです。

龍郷町 秋名集落

人との温かい繋がりを求めて

村上裕希さん(35歳)は奈良県で生まれ、4歳から横浜で育ち、真弓さんは生まれも育ちも東京。二人にとって縁もゆかりもない奄美大島だが、初めて奄美大島に訪れた2009年から島ファンになった。もともと二人とも子どもの頃に両親の実家で過ごした夏休みが楽しかったと言う田舎派。奄美大島は豊かな自然と、都会では失われつつある温かい人と人のつながり方に魅了され結婚式を奄美大島で挙げたほどだ。  結婚を機に移住を意識し始めた二人は、子どもが生まれ、「奄美大島で子育てしたい」との思いが募っていった。二人にとって、人間関係が希薄で人が多すぎる都会の生活は魅力的ではなかった。もっと地域と人が繋がるところで暮らしたい。さらに、裕希さんは「指示があって動く受け身の姿勢、否応なしに家族の生活環境まで変えてしまう転勤命令など、サラリーマンの働き方に疑問を感じていた。」

①島にいながらダイビングをしたことのない子どもたちへ向けたプロジェクト。島の将来を担う子どもたちにこそ、何よりも島の魅力を伝えなくてはならないとの想いで開催した。

地域おこし協力隊に着任

「奄美大島に引っ越そう」と思った二人だが、真剣に移住を考え始めると「仕事」という壁に当たった。IT企業に勤めていた自分にあった仕事が見つからない。職種を選ばなければ求人はあるが、これまでのように受け身の働き方ではなく、もっと能動的に働ける職に就きたいと考えていた。

そこで、島ライフを手に入れるために選んだ仕事が、龍郷町の地域おこし協力隊だった。地域おこし協力隊の任期は3年。役割は自治体によって違うが、龍郷町で裕希さんに課せられた任務は「龍郷町の過疎地域である荒波地区(東シナ海に面した安木場屋、嘉渡、円、秋名、幾里の5つの集落の総称)に、人の流れを生み出す」こと。具体的な指示があるわけではなく、自分で地域の活性化について考えて行動していくことが求められた。

②秋名・幾里プロジェクトで着目した秋名アラセツ行事。集落の伝統行事を観光資源として島おこしの方法を模索している

何もかもが予想外の島暮らし

任務のため全く知らない集落に住むことになったが、周囲の人々が何かと気をかけてくれ、不安なことは一つもなかったそうだ。ただ、住まいは床が少々傾き、石の上にあるはずの柱がなかったりする。「始めて見た時はちょっと引いた」真弓さんだが、今は集落での暮らしが「快適」だそうだ。もちろん、奄美大島の梅雨の風物詩のシロアリ飛来もある。移住直後にシロアリが飛んでくることは聞いてはいたが、その数は想像をはるかに超えていた。2歳の息子、泰佑(たいすけ)くんは、飛んで歩きまわるシロアリに最初は怯えていたが、今ではシロアリを見つけると怯えることなく、すかさず教えてくれる。「慣れるもんですよ」と裕希さんは笑う。

島の大切なものに気付き残したい

地域おこし協力隊に着任して最初に取り組んだプロジェクトが、「秋名・幾里魅力化プロジェクト」だ。国の重要無形民俗文化財「秋名アラセツ行事」※を軸に、自然、歴史、伝統文化などの秋名・幾里集落の魅力を島内外の人々に知ってもらうための活動で、体験滞在型観光を立ち上げるため、集落で有志を募り、この行事に合わせて集落主催の民泊ツアーを実施した。プログラムは全て集落からのアイデアで、集落民が加わり、行事のリーフレットや集落歩きマップの制作、民俗学者を呼んでシンポジウムなどを開催した。450年以上も続く集落の伝統行事に新たな取り組みを始め、受け入れられるか不安だったが、集落の方が手を差し伸べ自分たちが主体となってプロジェクトを支えてくれたことが何よりも嬉しかった。

地域の人々と結び付きが出来てくると、他の分野でも地域おこしに取り組むようになった。「せっかく綺麗な海に囲まれた島なのに、住んでいる子どもたちが地元の自然を体験する機会がない」と聞いて、みんなで機会を作ろう!と働きかけた。有志が揃うと、今度はその資金を確保するためにクラウドファンディングを利用し、海洋教育プロジェクト「見てみよう!わきゃ海」の実行を開催した。

裕希さんも真弓さんも、地域おこし協力隊の任期が終了しても島を去るつもりはない。「地域の人々と必要なことを自分たちで実行し、家族との時間を大切にし、豊かな自然を満喫している。欲しかった島ライフが、今、ここにある。「任期終了後の不安よりも、土着化に向けて次のステージに踏み出す期待の方が大きい」と笑顔で語っていた。

地域おこし協力隊を考えている人へ
ワンポイントアドバイス

安定した収入や家を行政が確保してくれることで選ぶ仕事ではないよ。自分で取り組むことを見つけていかないといけないけど、自分だけが目立つことは地域おこしじゃない。地元のやる気を促すのが、地域おこし協力隊。縁の下の力持ちであり、黒子的存在だよ。

集落のお祭り情報

秋名アラセツ行事

「秋名アラセツ」は450年以上続く集落の伝統行事で、山と海から稲霊(いなだま)を招いて五穀豊穣に感謝し、来年の豊作を祈願する祭り。早朝に「ショチョガマ」、夕方に「平瀬マンカイ」という祭事がある。年に一度、秋に開催される。